おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書 55)
/ アスキー / アスキー / 中島 聡 /
おもてなしという翻訳概念だけでは内容として弱すぎる
著者のいう「おもてなし」とは端的にいうと、
スティーブ・ジョブズのAppleにおける経営理念、思想の翻訳に過ぎない。
著者の頭のなかで日本人になじみの深い概念である「おもてなし」として咀嚼されて、それを読者に伝えたい、ということなのだろうが、結構このあたりは特にMac愛用者、Apple製品愛用者は感覚として理解していることであり、さらに一歩そこから踏み込んでなぜ良いのだろう?と考える人たちにとっては容易に分析できてしまうレベルにとどまる。
もし、アップルの経営哲学などに本当に興味があるのならば、創業者本人であるスティーブ・ジョブズの言説、スピーチを追うほうがおもしろいし、その観点ではこの本はあまり面白くないと思う。
著者は理念がある一流の技術者であり、アルファブロガーであるが、骨のある著書を読ませるという意味では失敗している。本の大きな割合を対談という水増しとしてしまったのは、初著作としてはまずかっただろうと思う。(対談集なら対談集として別個出せば良い)どうせなら、あまり大風呂敷を広げずに、技術者なりの技術周辺での著者自身の気づきなど一般にも伝わるはなしを「地道に」展開していれば逆に評価を得たのではないだろうか?
「上を見て」仕事をするな、「天を見て」仕事せよ
ワタシは、氏のブログを読んだことはないのですが、結構おもしろかったです。
レビューのタイトルは、後半の対談で中島氏が語る言葉ですが、この辺が、
日本企業の組織の中の歯車として生きていくのと、その対極として、生き馬の目を
抜く、ハイテク、シリコンバレーで、自分の存在と成功と仲間での成功を目指して
仕事をしていく人種の違いなのか?そんなことを強烈に印象づけられる、おもしろい
視点の本でした。
グーグル、アップル、ソニー、マイクロソフト、IBMや、その他、ハイテクベンダー
の名前が登場しますが、第一章で、はやりの、ユーザ・エクスペリエンスを「おもてなし」
という経緯は興味深かったです。
アスキー、マイクロソフトで働き、ハイテクの潮流の、まさに中心で生きていた氏
が語る、産業の世代交代、IT成功モデルの交代劇の分析は、一種、梅田氏の一連の著作と
通じるものもあり、この業界の栄枯盛衰と、しかし、磐石にも思えるグーグルの今後
の不安も、なるほどと読める、業界ものでもあります。
どの産業にしろ、ビジネス社会で生きていくうえで、硬くない対談も含めて、
一度読んでおいて損はない佳作です。
ただ、ちょっと昔の最盛期や、自分たちのやってきた仕事を、なつかしむくだりも
対談などには特に、多く登場し、その時代を知らない若い世代は、ちょっと
辟易するかもしれないな、とも思ったりしました。
著者のこれまでの人生が延々と語られていることが,読んでいて不満といえば不満だった。
私は本を読んでいて感銘を受けた箇所は本の角を折るようにしている。この本を読み終わって,それが一つもないことに気が付いた。最近では珍しいことである。なぜ,そうなってしまったのかは明確にはわからない。しかし,この本を読み終わって,「内容が軽い」という印象を受けたことがその一因であろう。確かにアップルやソニーのことについて触れられているのだが,今まで私が読んだ本以上のことは特に書かれておらず,雑誌を読んでいるような感覚であった。参考になったことといえば,私は中島聡という人物を知らなかったのだが,彼がウィンドウズのGUIの開発をされていたこと。純アメリカ産と思われていたウィンドウズに日本人がこんなにも深く関わっていたのかと驚いた。ただ,この本というのはまるで中島聡氏の自叙伝のような構成になっており,彼がマイクロソフトでどのように活躍したのか,なぜマイクロソフトを退社したのかというエピソードが多く綴られている。確かに読んでいて面白いのだが,しかしこちらはそれが知りたくてこの本を購入したわけではない。結局著者のこれまでの人生が延々と語られていることが,読んでいて不満といえば不満だった。そのため,内容も1990年代から2005年頃のものとなっており,古めかしい。また,著者の言っていることも理解はできるが,33歳の私にはジェネレーションギャップを感じ得なかった。著者自身が述べている「何か新しいもの」こそが私の知りたいものであったが,それに関してはそのヒントすら書かれていない。そういう意味で,この本から新しい発想が生まれことはなかったのが残念。
ウェブ2.0ブームとひと味違うIT現場からの発言
中島さんが本書で教えてくれるマイクロソフトでのソフトウェア開発の主導権争いの生々しいエピソードは初耳でした。
マイクロソフトの製品開発に深くコミットしていた日本人がいた、ということがまず驚きです。
もっとびっくりしたのが、西村ひろゆき氏との対談でグーグルの弱点を指摘していること。西村氏の「僕はグーグルにしかない価値が何なのかわからない」という評価に対し、中島さんも
「グーグルは検索で、1本ホームランを、打っただけの会社だからね」
と返していました。
なんなんだ、この中島という人は!
私は中島さんを全く知りませんでしたので、斬新な発言に驚くばかりです。
自他共に認めるソフト作りの才能を、中島さんはユーザーインタフェースを使いやすくすることに注ぎこみます。
経営を考えて技術的な決断をし、リーダーシップ示すこと。ビル・ゲイツならどう考えるかを想像しながら技術の舵取りをし続けたことを評して、対談者の一人である梅田望夫さんは、「中島さんはゲイツ・クローンだった唯一の日本人というわけですね」と言っています。
そんな中島さんが、ビル・ゲイツとの路線の違いからマイクロソフトを退社し、自分の会社を興して新しい挑戦をはじめました。おまけに、忙しい時間の合間にMBAを取るための勉強を開始しています。
そこまで頑張る理由を梅田さんに尋ねられ、中島さんは次のように答えました。
もしかしたらエンジニアは30歳までという「30歳引退説」かも
しれません。あの言葉が人生のライバルになっているような気
がしますね。
ウェブ2.0ブームとひと味違うIT現場からの発言は、新鮮です。
今までにないインターネットの将来像の見方を教えてくれるかもしれません。
マイクロソフトの内情に面白さ
ゲイツ率いる当時のマイクロソフトは、目的が「勝つ」。
対して、
ジョブズ率いるアップルは、製品に”ソウル(魂)を吹き込む”こと
だそう。
どちらが正解ではなく、スタイルや傾向の違い、だと思うが
その時代に受け入れられ、多くの人々に長く支持してもらうことが
答えのように思う。
ゲイツの言葉に「こんないい物を世界に広げたい」と、あったように
思うが、そのための手段は、かなり戦闘的なシェア拡大策ものだったの
かもしれない。
拡大期のマイクロソフトが社員の個性重視よりも、高度成長期の
日本企業のような軍隊的効率化集団
かのように感じれれたのが面白った
著者のブログはこれから読んでみたい
ディープエコノミー 生命を育む経済へ [DIPシリーズ]
/ 英治出版 / 英治出版 / ビル・マッキベン /
幸福はお金で買えるか
個人の幸福度は年収1万ドル程度までは収入に比例するが、それを越えれば必ずしも比例はしない。その証拠に、世界一豊かなはずのアメリカ人よりも欧州人はずっと幸福であり、繁栄を謳歌しているはずの戦後生まれは、うつ病発症率が先人の五倍に増えた。
効率は幸福度だけではなく、農村や家族と言った共同体解体をも引き起こす。コーン農家はウォルマートでコーンフレークを買い、アフリカの自作農はコーヒー栽培にシフトすることで貧困層に転落する。誰もが経済効率のためにつながりと安定を失い、先進国では超個人主義が台頭する。現代アメリカ、そしてアメリカ型の価値観を持つ先進諸国の人間は、経済効率という宗教を妄信してしまっているわけだ。
そこで効率以外のことに目を向け、共同体の再生を通じた豊かな社会を作りましょうという筆者の主張は、日本にも通じるところが大きいはずだ。
近代社会システムへの重要な問題提起。だが翻訳には不満足
非常に興味深い内容(のはず)なのに、とてもわかりづらい翻訳だったため、
内容がすんなり頭に入ってこない。
そのわかりづらい翻訳を、通ずるようにするのが担当編集者の責務のはずだが、
本書ではその施しがなされていないのでは、と感じざるを得ず、
実際、内容を理解するために、同じ箇所を何度も再読させられた。
読者が未熟、といわれればそのとおりかもしれぬが、
正直読後感は、翻訳への強いストレスで一杯になってしまった。
出版社は、ここにある一読者のこの小さな意見を、真摯に受けとめてほしい。
ただ、取り上げられている題材にはとても共感でき、周りにも推薦したいと思ったので、
それを相殺して、評価は星★★。
地域社会という切り口の持つ可能性
地球温暖化や食糧危機を含む資源不足、地域経済、都市と地域の格差、グローバリゼーション、高い生活満足度−本書で何度も挙げられる「地域社会」は、これらの問題を改善する重要な切り口になるかもしれない。
私達は既に地球で生産されるエネルギー・資源の容量を越えた生活をしており、地球温暖化や生態系の破壊といった環境問題はますます顕在化してきている。それに拍車をかけるように、中国やインドといった国が大量のエネルギーを消費しながら経済発展をし続けているし、世界人口も当分増加傾向にある。グローバリゼーションが進み、一部の層は大きな富を手に入れる一方で、その利益の多くが発展途上国から流れている。一方で、経済的に裕福になっている人々でも、人と人とのつながりは弱まりや忙しさから、生活満足度が低下しているという側面もある。
本書は、これらのような問題を改善するベストプラクティスとも呼べる様々なケースを提示している。それらに共通する、最も重要なキーワードは「地域社会」だ。環境にあまり負荷を与えず、コミュニティの人と人とのつながりをつくり、住民が直接民主主義に参加し、自分たちに関わることの意思決定に参加できる。その結果、非効率でGNPは下がるものの、環境・資源の問題を改善し、生活満足度の向上にもつながる。
持続可能な地球・社会といった観点から見るならば、GNPの拡大をひたすら追及する規模の経済には限界があると考えられる。何かを変えないと不可逆的なところまでいってしまう恐れがある。もしそれを改善できるとすれば、「地域社会」という切り口には、社会システムを変え、これまでの効率重視の生活を変え、それらが積み重なることでよりよい世界を変える可能性があるのかもしれない。その道のりは長いものの、本書は一連の問題を改善していくための有望な切り口、思想、事例を多くの人に提示してくれるものだと思う。